おばあちゃんに使い捨てカメラを渡した。その日は1日、おばあちゃんと写真の取りあいっこのデートをすることにした。私がまたアメリカに戻る前日の日。今まで写真を撮ったことがなかったおばあちゃん。使い捨てカメラのボタンの位置を何度も確認して、とりあえずビューファインダー辺りに目をつけて押す。母に車椅子を押され、地元の街を散歩しながら、激写しあいっこ。おじいちゃんのお墓参りに始まって、商店街をゆっくりまわり、大好きなお蕎麦屋さんでお昼ご飯を食べて、和菓子屋さんでお団子買って、私が小さい頃遊んだ公園の横を通って、おばあちゃんが一人住む、懐かしい家に戻った。

 大正生まれ、秋田美人のおばあちゃんは、私が写真を撮り始めた頃から、何度もモデルになってもらった。

 ニューヨークに帰り、現像した写真をしっかりスキャンして、上等のハードカバーの本を作り、家族と親戚に送った。余るほど時間のあったおばあちゃんは、あの日のこと、初孫の私が成長してゆく日々を思い出しながら、何度も何度もその本のページをめくってくれた。

 あの頃、日本の家族のもとに戻るたび、母は私を糸の切れた風船と呼んだ。今だったら、ゆっくりそばで、一緒にまた絵を描いたり、民謡を聞いたりしたいのになぁ。

Previous
Previous

Scars and Burns

Next
Next

Kinoko